第18話

 

「黙っていたこと・・・?」

「あたしの本名はセナ・ハーベンハイム」

「ハーベンハイムって前にタータビネーニョさんが言ってた・・・・え!?」

「そう、あたしは・・・王女・・・だった」

「お、王女ぉっ」

口をパクパクさせているアレフの肩をタータがポンッとたたいた。

「驚くのも無理はねえ、俺だってよ信じられなかった」

「タータビネーニョさん・・・」

「アレフレッド様、本当は私は姫様の教育係をしていたのです」

「そ、そうだったんですか」

「・・・・・・・・・」

セナはぎゅっと手を握り締めて下を向いている。

そんなセナを見てアレフは思わず笑みがこぼれた。

「セナ、俺さ前に言ったよね。セナが姫でも姫じゃなくてもセナはセナだって」

「アレフ・・・」

「俺達は仲間じゃないか、なにを気にすることがあるんだ」

「だ、だって・・・」

「なにも変わらないよ」

セナの瞳から思わず涙がこぼれた。

アレフはそばへ寄ってセナの頭をポンポンと叩いた。

「どうしたのさ、本当、このごろらしくないよ」

「ば、ばか・・・」

そんな2人を見てはやし立てようとしたタータの口をヤーゼンが両手で塞いだ。

「もがっふががっ」

そのまま引きずるように2人から離れさせた。

「ぷはーっ、な、なにするんだよっ」

「お前はろくなこと言わんからな」

「るせーっ、だいたいハーベンハイム王家に仕えてたなんて初耳だぞっ」

「当たり前だ。教えとらんからな」

「っ!!、このじじいっ」

「お前も随分老けたな、特に頭のあたりが薄くなってきとるぞ」

「ななななっ」

タータは慌てて頭を押さえた。

「ふわっふわっふわっ」

「く、くそっ、このくそ親父っ!!」

「なんだ、どら息子、お前は13の時に家を出て行きおったからな。私も老けるはずだ。頭もほれ、この通り」

そう言ってヤーゼンはかぶっていた帽子を取った。

つるっつるっ。

毛の1本も生えちゃいない。

「んなっ、お、俺もそうなるのか」

「そうじゃよ、ははは」

「だーっ、冗談じゃねえっ、絶対にそうはならねえぞ」

「それにしてなんだ?タータビネーニョとか言うのは」

「うるせえ、俺の今の名前だ。タータビネーニョ・カミールクロス・イースタリオンて言うんだぜ」

ヤーゼンはがっくりと肩を落とした。

「情けない・・・」

「な、なんだとっ」

「そんなネーミングセンスしかないのか。ああ、情けない」

「うがあっ、元はと言えばてめえが俺に変な名前つけるからだろっ」

「どこが変なのだ」

「だーっ、あのなぁ、フールなんて名前つける親がどこにいるっ」

「ここにいるぞ」

「(ガクッ)おーい、意味わかっててつけたのかよ」

「当たり前だ。『馬鹿』という意味だ。ぴったりではないか」

「こらあっ、俺はそのせいでさんざからかわれてきたんだぞ。ぐれたってしょーがねえだろがっ」

「・・・・・・そうなのか?なるほど」

「親父っ、母さんは何も言わなかったのかよ」

「ああ、そういえばなにか言ってたな」

「それでも変えなかったのかっ」

「そうだ」

「はあはあ、もーいい・・・疲れた」

「そうだな、そろそろ戻るか」

はっきりいってタータの声があまりに大きかったのでまる聞こえだったのだが、何事もなかったように戻ると2人はさっと顔を背けた。

「?」

「・・・・・・・」

2人は顔を真っ赤にして手で口を押さえている。

「おい、どうしたんだよ」

タータが言うとアレフはプッと吹き出した。

「ふっ、ははははははっ」

「くくくくくっ」

「な、なに笑ってんだよ」

「はあー、聞こえていらっしゃいましたか」

「んなっ」

タータの顔が赤くなる。

「すいません、姫様。馬鹿息子でして」

「ふふふっ、そういえば顔が似てるものな。気が付かなかったぜ」

「私もまさか一緒に旅をしているとは思いませんでした」

「そりゃこっちのセリフだあっ」

興奮しているタータを押さえるようにアレフは言った。

「まあまあ、皆さん積もる話もあるでしょうから、ここで一泊しましょう」

「そうだな、大事な話もあるし」

「はい、私もお知らせしなければならないことがあります」

「ちっ、しょーがねえなあ」

ようやく目を覚ましたフィリシアとクロッサルを加え、一行は焚き火を囲んでいた。

セナのことももうすでに話していた。

「まあ、セナさんが王女様だったなんて驚きましたわ」

「おう、俺も信じられねえぜ」

アレフが言ったとおり2人ともセナに対して態度が変わることはなかった。

セナは仲間というものがどんなに大事なものか心に染みていた。

「姫様、ではあの攻撃から逃れて一体どうしていたのですか」

ヤーゼンが尋ねるとセナは静かに話し出した。

「城を飛び出してあたしはどこをどう走ったか分からないけど崖まで逃げてきたんだ。

後からはあたしを追いかけてくる兵士の声が聞こえた。捕まったら殺されると思ったよ。だから、あたしはその崖から飛び降りたんだ」

「崖から!!」

アレフは思わず声を出してしまった。

「しー、静かにしてろっ」

クロッサルに言われ口を押さえる。

「気が付いたらどこかの部屋に寝かされていた。何もない部屋だったのを覚えてる。そしたら男が入ってきた。

男は言った。

「お前、川岸に打ち上げられてたんだぜ。一体どうしてあんな所にいたんだ?」

あたしは答えようとしたけど声が・・・・・・声が出なかった。いくら話そうとしても声がでないんだ。

男はあたしのことをいぶかしそうに見た。どうしよう、なにか言わなきゃ言わなきゃって。

あたしは怖くて悲しくって気が付いたら泣いていたんだ。すると男は

「もういい、辛い目にあったんだな」

といってあたしを抱きしめてくれた。あたしはその男に抱きついてわんわん泣きじゃくった」

誰もなにも言わない。

ただ、パチパチという焚き火の音だけが聞こえていた。

 

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