第19話
「男の名はカロンと言った。あたしの剣はカロンに教えてもらったんだ。
その日から行き場のないあたしをカロンは家に置いてくれた。相変わらず声は出なかったけど。
何かを言いたいときは地面に書いたり身振り手振りで伝えてたんで何も不自由はなかった。
カロンの職業は盗賊でね、家にいないときが多かったけどあたしはだいぶ可愛がってもらったよ。それにカロンは凄く強いんだ。
そんじょそこらの男が何人かかっても太刀打ちできないくらい」
昔を思い出してかセナは幾分か明るい表情になっていた。
「でもある時、カロンが大怪我をして帰ってきた。城騎士にやられたって言ってた。
あたしはわんわん泣いていたけどカロンは言ったんだ。
「こんなん屁でもねえ。何で泣くんだ、お前はいつも笑ってろ」
あたしはその時思った。剣の腕だけじゃないこの人は本当に強いんだ。あたしも強くならなきゃって。
それでカロンに剣を習い始めた。カロンは女に剣を教えるのは・・・って言ったたけど、頼みこんで教えてもらった。
それから5年は何事もなく過ぎていった。あたしは相変わらず声を出すことはできないまま。
憶えてるか?5年前、アルバリア王が出した命令。城騎士に逆らうものはどんな理由があろうと処刑しろっていう。
普段からカロンは城騎士と揉めてたんだ。仕事が仕事だし。でもカロンは強かったから滅多なことでは手を出してこなかった。
だけど、その命令があった日。カロンは闇討ちにあったんだ。仕事帰りだった。あたしが待ってると思って急いでたんだろう。
囲まれてるのに気が付かなかったらしいんだ。カロンは城騎士にめちゃくちゃに斬りつけられた。
20人以上いたんでいくらカロンでも適わなかった。それでも・・・それでもカロンは血だらけになってもあたしの元へ帰ってきたんだ。
あたしは医者を呼ぶって言ったんだけど、傍にいてくれって言われてそこを動けなかった。カロンはそんなになっても笑ってるんだ。
「なに・・・泣きそうな・・・顔・・・・・・してんだ・・・よ。笑って・・・ろ・・・って言った・・・だろ・・・・・・。
よお・・・お前さ・・・名前・・・・・・なんて・・・言うんだ。俺さ・・・馬鹿だから・・・・・・字読めねえ・・・んだ・・・」
「・・・・・・あ・・・・・・あ・・・」
「・・・・・・・・・俺の・・・・・・むす・・・め・・・・・・」
「カロンーーーーーーっ!!!」
あたしは最後まで自分の名前をカロンに呼んでもらうことはなかった。
あたしの大事な人達をすべて奪ったあいつ・・・絶対に許すことはできない」
セナの瞳から透明な雫が零れ落ちた。
フィリシアも涙を浮かべている。
「それから、あたしはあいつを倒すための旅をしているんだ。あとは知っての通りさ、カロンの腕はさすがだったよ。
『鋼鉄のセナ』なんていう通り名ができるくらいにね」
その話を黙って聞いていたヤーゼンが口を開いた。
「姫様そのことなのですが、アルバリア王の後ろには・・・」
「分かってる・・・魔族がいるんだろ」
「知っておられたのですか・・・」
「あたしだってただ旅をしてたわけじゃない。いろいろと情報を集めてたんだ」
「そうですか・・・」
セナはみんなを見まわした。
「聞いての通りだ。あたしの目的はアルバリア王の後ろにいる魔族、ルーゲンを倒すこと。これは決して簡単なことじゃない。
死ぬかもしれない。だから、みんなあたしと一緒にいないほうがいい」
「な、なに言ってるんだよ、セナ。仲間だって言ったろ。仲間は助け合わなきゃ」
「アレフ・・・でも・・・」
「そうだぜ、なに水臭えこと言ってやがんだ」
「そうですわ、私達セナさんが好きですもの」
「姫様・・・」
「これじゃ断れねえだろ。観念しろよ」
「みんな・・・」
セナは頭をさげた。
「ありがとう・・・」
「ひひひひーん」
シルバーもセナに擦り寄った。
「シルバー・・・お前も来てくれるのか」
一段落したところで今度はヤーゼンが話し始めた。
「実は姫様、アルバリア王は姫様を探しているのです。やはり向こうも姫様が亡くなったとは思ってないうようです」
「そうか・・・だが、今はその時ではない」
「それに・・・」
「それに?」
「あの・・・姫様を探しておられる方がもう1人いるのです」
「それは誰だ?」
「・・・・・・ケインカーネフ様が・・・」
「!!」
「私も最近まで知りませんでした。ケインカーネフ様も姫様がいなくなったのと同時に姿を消したのです」
「ケインが・・・」
「それが噂で姫様を探している剣士がいると聞きました。おそらく・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「ケインカーネフって・・・誰ですか?」
アレフはつい、そう言ってしまった。
「あ、これは失礼を。ケインカーネフ様というのはアルバリア王の実の息子です。つまり事実上の王子というわけでございます」
「王子・・・。で、でも何故その人がセナを探すんですか?」
「はあ・・・」
ヤーゼンは言い難そうにセナを横目で見た。
「・・・・・・いい・・・」
セナはゆっくりと頷いた。
「ケインカーネフ様は姫様の許婚でおられました」
「許婚!?」
「まあ、セナさん恋人がおられましたの」
フィリシアが目を輝かせて言った。
「こらこら。で、じーさんよ、そいつが王の元から姿を消してセナを独自で探すのには理由があんのかい?」
クロッサルは胡座をかいたまま、あまり興味を示さないようだった。
「・・・・・・それはその・・・」
「ケインは自分の父親があたしの父親を殺したということからの罪の意識で王子という地位を捨ててしまったんだ」
「それは分かるけど、それでどうしてセナを・・・」
「ケインカーネフ様は姫様を愛しておられるのです」
「今でも・・・ですか?」
「おそらく・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
(ケイン・・・・)
それ以上そのことについて誰も聞こうとはしなかった。
「・・・ま、まあ、みんなよぉ。怪我もだいぶ良くなったことだしさ。もう一晩ここで休んで次の街へ行こうじゃねえか」
タータはこの暗い雰囲気に耐えきれなかったようで、そう言うとゴロンと横になった。
「そうだな、そうするか」
「そうですわね。とにかくこの場所から一刻もはやく離れたいですわ」
日が暮れるまでまだ時間があったので各自それぞれ散り散りになった。
そんな中アレフは木に登り、1番高い枝のところに腰掛けていた。
(セナに許婚か・・・)
なんでこんな変な気分になるんだろう。
よくわからない。
自分の気持ちが理解できない。
「ふう・・・」
アレフは大きくため息をついた。
「やけにアンニュイじゃねえか」
急に声がしたのでアレフはびっくりして横を向いた。
いつのまにかセナが隣に座っている。
「セ、セセセセ、セセッ」
「おい、落ち着けよ。アレフ」
「び、びっくりした」
「驚かして悪かったな」
「い、いや」
「ちょっとさ、相談にのって欲しいんだけど」