上村正康教授


2001年度ニュートン祭パンフレットより転載。

     いきなりですが、若い頃はどうだったんですか?

中学・高校時代は、いわゆるラジオ少年で、ラジオを組み立てたりしていた。真空管を買ってきたりコンデンサーを買ってきたり。最高はテープレコーダーを作った。高校の物理部が何年間も作りつづけて私たちの時に完成した。文化祭で発表しようと思ったが、その前に演劇部に貸していたら壊されましたね。 将来は、東芝(当時、最高品質の真空管を製造)の電気技術者になるつもりでいた。 高校の終わり頃に、東海村で原子力開発が始まり、こっちの方が面白そうだと進路を変更した。

     技術者になりたかったのなら実験の方ではないんですか?

原子物理が面白そうだと思った。あとは小学校の時湯川先生がノーベル賞をもらったからそれもあったかな。 原子核で実験というのは考えなかった。原子は目で見えないからね。量子力学とか素粒子とかは本であったからそれでかもしれない。

     若い頃から物理の方に興味があったんですね。他のことには?

写真が好きだった。写真を撮るより、現像、引き伸ばし機などを手で作った。 カメラのレンズだけはカメラ屋へ頼んで、あとは町工場へ設計とかして頼んだ。それでフィルムを引き伸ばすわけ。同じフィルムを店に持って行き同じ大きさに引き伸ばして、どっちがシャープかを比較する。僕の方がよくできていた!結局大学入って辞めてしまった。 あと車の運転はしませんが、高校時代はオートバイを無免許で運転して、それで車への熱は冷めた。それで、パトカーに追いかけられる夢ばかり見ていた。結局つかまらなかったけど。 大学では、一年の時に「自然科学+山+スキー」の同好会の創設に加わって、それに熱中した。山とスキーは相当できるんだけど九大にきてからはしなくなった。 量子力学や場の理論などを同好会で先走ってかじり、将来は素粒子論を目指すつもりだった。でも授業のほうはさっぼて自分の好きな授業だけ出ていた。なぜその授業を受ける必要があるのかわからないのは出なかった。典型的なのは、物理、数学。なぜ今やらないといけないのか考えた。「それが必要になったと時は必死に頑張りますから今はさぼります。」と神様に誓ってさぼっていた。でも 物理数学必修だから大変だった思い出がある。試験受けて、なんとかなったかなと思っていて、「次のものは追試験」という発表が出たが、自分がそれに載っていなかったから「受かった!」と思ってたら、追試験を受けることもできないレベルということだった。 それが最後まで分からなくて卒業直前になって、親に大学から「お宅の息子は単位が足りなくて卒業が危ないから激励してやってください」と電報がいった。そして、おふくろがふっとんできた。それで物理数学の先生のとこへ行ってレポートを出すということで勘弁してもらった。レポートいっぱい書いて大雪の時、持っていった思い出がある。 でも今は物理数学で食べているようなもんですね。シュレーディンガー方程式の三粒子系の式を解くという最先端で、ほとんど物理数学ですね。でも必要になった時は、必死でやるというのはちゃんと心に誓っている。そう思わない時はさぼりますと! まあこの言い訳はあんまり薦められないかもしれない。私はさぼるための言い訳として都合よく使っていたけど。 二年生の頃、大学院の講義を聞きに行った。場の理論とか教科書を書いているような有名な先生とか聴きに行った。まあチンプンカンプンだったけどね。それで「これではいかん」と思って、大学院で素粒子をやろうと思い、その前にもう少し手で触れること、と思って地球物理学に行った。 当時、人工衛星が回り始め、南極観測が開始され、プレートテクトニクスが確立して地球物理学は熱気に満ちていた。第一次南極越冬隊長の教授が帰ってきて、授業で開口一番「地球物理学は、今革命前夜である。今日俺がしゃべることは明日には嘘である。」と言ったのには、たまげた。大学4年間で、もっとも印象に残った言葉だろう。 大学院進学では素粒子理論までは戻らず、もう少し現実に近い原子核物理学(理論)に入った。 研究の最先端を走るには、大学の枠を超えた連携が必要なことを痛感し、若手夏の学校などをとおして同世代の全国の院生と積極的に交流した。この当時の人のつながりは、その後の研究のための大きな力となった。

     特研はおおまかに、物性か粒子系、理論か実験と分けられると思うのですが、それに対してイメージができていないのでそれについて話してもらえませんか?

多分今まで色々勉強してきて、こういうふうにいきたいという思いができているんじゃないのか?と思う。人工的に理論、実験、粒子か物性と選んでいくものではない。特研の決める時ぐらいには、自分の中ではこうしよう!と決まっている人はそうしなさい。決まってない人は、理論か実験か決まらない人は、どっちか選びなさい。それで一年やってこれがそうだなと思った人はそのまま、自分に合わないなと思った人は、例えば理論選んで理論合わないなと思った人は実験へ行くなどするといいと思う。 特研はあまり人生には影響ないかもしれない。むしろ大学院をどこに選ぶかに影響する。 大学院に入ってどういうテーマを研究をするかということはそのあとの自分の運命に随分影響する。だから自分の運命は自分で決めなさい。特研を選ぶこと、また大学院の研究室を決める時もそう。 今までは大学入試とか色々なプレッシャーの中で選んできた。今度はなんの競争もなく自分のやりたいことを選べる時。特研を選ぶ時、院を選ぶ時、入ってどういう研究するかということを自分が選ぶ、好きに選ぶ。 多分自分で自分の運命をプレッシャーなく決められる最初のチャンスじゃないかな。でもそうなるとみんな戸惑ってしまう。先生にこれをやりなさいと言われた方がいいと思う人は研究者には向いていないんじゃなないかな。そうじゃなくて自分でこういうのがやりたいと決まった人はそうしなさい。決まってない人はどれを選んでもよい。それを試してそうだなと思った人はそのままで、違ったと思った人は反対側の方へ。そんな重大ではない、特研は!まだ自由に動ける。

     情報の特研がありますがなぜですか?

大学院は理学部と工学部の情報が集まってシステム情報研究院を作った。だから前は物理科を卒業して情報の大学院に行く人がいて、その人達は非常に成功しました。 数学科の情報の先生は物理の出身者を非常に期待してますね。だから情報の特研がある。それは情報の先生が物理の学生を取りたいからその窓口として離さない。情報の特研受けてそれから情報の大学院を受ける。その人達を情報の先生は大歓迎してくれる。 物理の考えを良く持っていて情報に 来てくれるという人を希望しているようです。

     数学とか化学とかではないんですね?

物理の考え方。工学部的でもない。遺伝子のゲノム解読なんかは物理の柔軟な考えがいる。

     実験家は実験する前に実験結果を予想して実験してそこでまた考えたりしますよね。理論の人は自分で実験したりしないのですか?

それは全然分かれていて全く違う世界。我々理論がこういう実験やったらどうかと実験家に持ちかけることはある。つまりこういうことして理論でこうなるからこれがその通りか実験で確かめてくださいということ。でも自分でそういう装置作ったりはしない。核実験のやるようなことはできない。それは実験の院生がやってるくらいのことでも。 だから理論屋になる時、特研で実験やってきて実験のセンスをある程度身につけていると実験家に話を持っていく時に、そういう実験ができそうか、どのくらい時間がかかるかとか、分かるかもしれない。だから違うこともやる方がいいんじゃないのかなと思う。ここの核理論の特研から院に入る人もいるけど核実験から来る人もいる。逆もある。

     院に入ってから研究室が変われますか?

たまにある。数年に一度くらい。 それは勝手には移れない。院試の成績がそこのボーダーラインに足りていれば移れる。理論か実験かは院に入ると時はぼ決まっている。そのあと移ることはほとんどない。 しかしドクターに入るのはまた別の話。また試験を受けて入るわけだから。核理論から素粒子にいった人はいる。実験家が理論やることは可能。逆は不可能だと思います。

     理論を生み出すにはどういう過程を踏んでやるのですか?

自分が興味のある課題について世界の最先端がどうなっているか、まず勉強する。例えばそれである理論と実験結果があって、それが合わない所があって、それを説明するというのが今の課題の一つだとする。そしたらその理論を勉強してそれに何が足りないのかを考え、それに何か追加して理論を解いてみて実験を説明するというのは典型的なパターン。 ゼロからのスタートはあまりない。今まである理論では説明できないからなんとかしようというのがだいたいの実状。あと一歩のとこをいろんな人が考える。そのとき自分達が持っている理論だったり、他人の理論の場合もある。たいがいはそこの研究室の理論というのがあって、それを院生が教わる。その理論をつかってこれが理解できない、追加したいというのを一緒に考え、始めはこういうことをやったらどうかと意見を出し合う。何か理論をゼロから作りなさいと言うわけではない。今研究室で使っている理論で不十分なとこがあるから改良したい。 この方針でこう改良したらもっとよく実験を理解できるかもしれないからその部分をやってみませんか?と言うの場合がたいていのスタートです。そうやっていくうちに自分でこうしたら上手くいくかもと思ってやる場合が多い。 いろんな場面でいろんな理論がたくさんできている。たくさんの実験が行われれていてもある理論で上手くいかないからなんとかしなければならない!ということになっている。 私たちが最初に作った理論はひ弱なものであって、それでこういうものをやろうとしたらなかなか上手く説明つかない。 どうしたらいいだろうか?と院生にいうと院生とかが色々あれこれと言ってくるが、石とダイヤモンドがあってほとんどが石なんだけどキラッ!と輝いた時それかもしれないなと思ってそれをやってみようということになるわけで、それを見逃さないことです。 私はその役割が多い。それは研究室の雰囲気による。先生がこうやんなさい、こうやんなさいという場合もある。私たち教授などは考えはいろんな考えが混じっているからかえって邪魔することがある。問題はこうなんだけどもう全然新しい頭で色々言ってくれというのが一番いい。我々は常識的な頭で考えて解決できなくて困っているわけで、とらわれないで色々言う場合がいい場合がある。でもよく知らないとたいていは既にあること言ってきたり、間違ったこと言ってきたりたくさんある。 そのときそれは駄目とか何馬鹿なこと言ってんだと言っちゃうと出てこなくなってしまう。それは院生が勝手なことバンバン言える雰囲気かどうかというのがあってここの研究室は割りとバンバン言っている。先生も知らないだな?知らないことにについては同じなんだなとわかると何言ってもいいんだなという感じ。先生があんまりきつく言う人だと駄目だ。大事な芽を潰してしまう可能性がある。 世界の最先端で今非常に大事という問題(つまんない問題では駄目)で、かつ我々が半年くらい突っ込んで光が見えそうな問題を(あんまりすごい問題でも駄目)院生が解決した場合、彼は非常に注目される。そうすると院生が学会から注目されて、いろんな大学の先生にることができる。院生によい研究をさせてそれが世界的に目立つようにしないといけない。そういう課題でないといけないしその人に合った課題かというのも大事。また他の院生がやっていないということも大事。 前の先輩と同じことをやっていてもずっとその先輩のしたにいるということになってしまう。だからそうではなくそれとは違う課題を与える必要がある。そうすると研究室にある財産は吸収した上で先輩とは違うことをやっていく、違うことを開拓していくということで対等にやっていけるようになる。それも研究者にとって大事なことである。

     大学院進学に向けて何をすればいいですか?どんなことを勉強すればいいですか?

一つの成功しているパターンは遊び回って何もしない。存分にもう嫌っていうほど遊び回る。大学院に入ってから一生懸命勉強する。 何をしたらいいかは研究室によるだろうね。ここの研究室だったら量子力学を嫌って言うほど勉強してきなさいと言う。しかし、研究を始めて本当に必要になった時必死にやるとうのが一番身に付く。いろんなこといっぱい勉強してその中から選ぶという考えの人と、自分はこうやりたいっていうのが早く決まっている人とどっちがいいのかはわからない。 テーマを早めに絞ってそれを集中してやると、あんまり広いことは勉強できない。だけどそれが非常にレベルが高くなると回りがよく見えてくるんだよね。このためにあと何をればいいかがわかるわけだ。だから一つに絞ってどんどんやっていったら、他のこと勉強してないから視野が狭くなって良く回りのことが見えないんじゃないかと思ったら、そうじゃなくて高い所に行けばよく見えるんだよ。例えば色々な職人さんが深い考えを持っていたりするのはそういうこと。 心配だから何でも勉強してそれからやろうと思う人は勉強した中に将来ほとんど使わないこともいっぱいあることも知っておかないといけない。その間に専門の分野にもっと集中していたらいいこともある。それが損に働く場合もあるし、たくさん勉強していたがためにそれが将来役立つと言う場面も現れてくる。 でも大学院時代ぐらいならばそんなに広いことはいらない。かなり絞ったことでわっとやって早く研究の最前線に出ていく方がいいと思う。いっぱい勉強してそれがないと上手くいかないんじゃないかっていう不安があるかもしれないけど、多分あんまりそれは不安に思わない方がいい。早めに自分のやりたいことをやっていって、その分野で高い所に登ると回りが見えてくる。だけど若い頃にあんまり勉強していないと将来拡がっていこうとする時にその分苦労はする。でも回りがよく見えている分苦労の仕方は少ない。 むやみやたらと勉強するのと違ってだいぶ回りが見えている上で必要なことを勉強するっていう。それが一番お薦めかな。研究者になる時はだいたいそのパターンの方が多いような気がします。 ここの僕の最初の弟子がT大の助手になってT大で講義してたけど、T大生は何でも一生懸命勉強するけど、頭が重くて飛べないT大生と言ったな。この研究室はそうじゃなくてまず行けって言って行きながら考えるスタイル。よーく考えていっぱい勉強してから飛ぼうとしても重くって何をしたらいいか分からなくなる。何でも勉強すると方針が良く決まるかというとそうとは言えない。それは人によるんだけど。この研究室の経験でいけば、早めにテーマを絞って自分のやりたいことを突き進んでいくのがいい。 大学院に合格して半年のうちに教養をつけようとか思わない方がいいかもしれない。ここの研究室ならば量子力学の基礎をしっかり作っておく。それか実験の特研にいるなら実験のことを一生懸命やってきなさい。反対のことがよく分かってるというのは非常に貴重な、核実験行って核理論合格したら後期移ってもいいんだけど、でも移らないでそこでやることをやりなさい。ここにいて核実験に合格した人も一人いるけども、核理論に残ってやるって言ってる。 ある面では早くから絞らないで広いことを勉強してきた方がいいこともある、一方あまり色々手を出しすぎるとかえってマイナスがないってこともない。色々です。 ただ大学院に受かってから半年はその研究室を訪問してその先生に聞くべき。ここで一般論でこうってのはなかなか言えない。その研究室を訪問して残り半年何をしたらいいかってのを聞いてそれをするってのがお薦め。 だから核理論だからって核物理のことを一生懸命勉強しててくる必要はない。入ってきてから研究テーマを選ぶ時に量子力学は一番基本になるから、それはしっかりやっときましょうということ。

     基礎粒子系と凝縮系と大学院でありますがなぜですか?

それまでは物理の大学院と化学の大学院とがあった。大学院重点化の下で院生を増やそうとしたが、そのときに黙ってやっては駄目で工夫をこらしてこうやりたいから大学院を増やします、先生を増やしますってことを文部省に訴えるわけです。そのときに魅力があるようにしないといけない。 物理を化学の境界領域ってのが今非常に発達していて物理と化学の境界を外して新しい分野を開いていきます。それが凝縮系っていう分野で物理の2/3と化学の2/3ぐらいをそのままにして、残り1/3,1/3の良く重なっている所を一緒にしてそれを凝縮系というふうにした。 基礎粒子系は素粒子原子核宇宙それと物性の中でも基礎的な粒子を使って中性子の散乱を使って構造を見るとかX線で見るとかそういう人達が基礎粒子系に入っている。でもきれいに分かれたわけじゃない。 大学院生が一番新しい所を切り開いていくから、大学院の構成をそう新しくした。学科は前の通り。基礎的な教育は物理と化学は別。最前線の研究をやる若手を育てる所は最前線の所に合うように変えた。まあ、学部の人にとってはそれは忘れてもいい。入試の時には考えないと行けないけど。院の授業は分かれてるけど、どこでも好きに取りに行って良い。

     就職の係はどなたですか。

郷農先生から網代先生に交代しました。

     就職する人はどんな準備をすればいいんですか?

それも会社から言ってくるだろうと思う。 このごろはマスター出がほしいんだけど、それは結局学部出と違うのは研究ってことを一通りやってきてるかどうかなんですよ。今世界で何が大事で何を研究したらいいかってことを世界中を見て自分のやるべきことを決めていくってことを経験している。それを自主的にやっていける。結果を自分でいいかどうか、発表できるレベルかどうかも判断して最後にたくさんの人の前で発表するして、自分の研究の重要性を訴える。最後に修士論文を書く。研究して発表して論文にまとめるというワンセットやって来ているってことが会社にとっては非常に大事な人材なんですね。 それを会社でやろうとしても、会社はそういう暇がない。だから研究ってのが分かっている人がほしい。 それは素粒子論やって来ても何やってきても構わない。4年で就職する人はそのことを経験していないわけで、その差は非常に大きい。だから4年の人としては特研でなるべく研究に近いことをする。その意味で特研は非常に大事。自分でテーマを決めることはないだろうけど、なるべく研究に近いことを特研で味わってくる。世界の情勢を勉強するとか。自分で調べてどんどん発表する。大学院で研究をワンセットできない代わりに特研を大事にすること。 会社側の人は物理の学生は頭が柔軟ってことを言われますね。悪口を言うと工学部の人はマニュアルがあってそれを忠実にこなしていくから、何か新しいことをやるとか突発的に何かをやるってことはなかなか対処できない。こういう時物理の学生の方が非常に適している。 物理系の人と工学部系の上司とで考えの違いが出るらしく、工学部系上司はきちっと決まったマニュアル通りにこなすことを要求するんだけど、物理系にはぴったりこないからいろんなこと言うとぶつかるとか。物理系が工学部のグループに入ると上手くいけばそういう特徴を発揮できるわけだ。会社の人も本当はそういう人を要求していると思う。何か新しいことを切り開いていく時にそういう頭の柔軟な人がいる。 就職する人ももう一回物理を基礎からしっかり勉強していろんなことに対応できる基礎をしっかり作っとくといい。 物理出ってのはやっぱりいろんな意味で期待されると思う。

     日本物理学会ってなんですか?

会員制で物理を研究する自主的組織。政府とは無関係で研究している人達の自治組織。研究発表の場を作るのが目的ですね。お互い研究を刺激し合うとか研究発表の場を作る。 一番大きな行事は春と秋にある学会。要するに研究発表の場ですね。一人10分とか15分くらいで何百と言う分野ごとに講演会がある。新しい研究を発表して、みなさんに議論してもらい、色々批判をもらって更に考える機会を作る。それが一番の大きなこと。 二つ目は研究の環境の改善やあるいは新しい研究所を作るとか新しい実験装置を作ってくださいとかいうようなことを政府にお願いする時の意見をまとめる窓口になっている。そういう活動もするわけですね。 もう一つは世界の物理学会との交流。学会を合同で開くなどする。今年の10月に原子核理論に限ってアメリカと日本の物理学会で合同でハワイでやりました。アメリカが4〜500で日本からは200ぐらいだったかな。テロのあとでアメリカ人はハワイの方が平和だからとほとんど減らずにやって来た。日本は1/5ぐらい辞退した。僕は行ったけど何事もなく、有意義にやって来ました。そういう外国の物理学者とのつきあいの窓口でもある。 学会には誰でも入れます。一年に1万円ぐらい会費は払うけど。学会やる時には場所取ったり色々お金がかかるから、2〜3000円ぐらい参加費を払う。 学会は特に大学院生、大学院出たての人にとっては非常に大事な自分の研究をアピールして自分を知ってもらう機会。だから大学院生には半年学会ごとに新しい研究発表をするといい。そうするとみなさんに知ってもらえて大学の先生とか研究所に勤めるとかできる機会が増える。 今なかなか就職見つけるのが大変だからいろんな所が奨励金ってのを出してます。普通の月給もらって三年間研究に専念する。文部省の外郭団体が出してるとか、国立の研究所が出してるのもあります。その三年の間に就職を見つけるんですね。 それから学会の機関誌を出版している。アメリカの物理学会やヨーロッパの学会が出版したり、もちろん日本の物理学会も出版しています。一方で出版社がコマーシャルのために出版してるってのもあります。オランダの出版社なんかはそうですね。編集したり原稿集めたりということは研究所がやって、世界に売りに出すのは出版社がやってる。 物理学会の九州支部もあります。九州地区だけの発表会もあり、これは12月にあるかな。それはマスター一年とか2年ぐらいでもどんどん発表できる場です。物理学会で発表するってのはある程度のレベルがないと駄目で、申し込めばできるけど発表した時にみなさんからわあわあ言われてしまったり、あんまりレベルが低いと何だってことになる。たたかれてあんまりひどいと何でそんなの発表するかと言われたりもする。九州支部ではもう少しレベルを下げている。

     院試について教えてほしいんですが。

院試は1次はペーパーテストで2次は面接です。 1次は素核宇宙理論、核実験、物性理論、物性実験に分かれて合格者を決める。1次と2次の総合点で合格者を決める。

     1次で理論は65点だけど実験は25点で良いといううわさを聞いたんですが?

65点なんか取れるんかな。年による問題の難易があるから何とも言えない。最低点はグループごとに違う。一般に理論の方が高く、実験は低い。

     院試で九大生だから九大の院試が有利になったりすることは?

ここは全くない。ペーパーでも面接でも。他大学は別途入学とかあるが。一方で化学は九大の人なら面接無しと明らかに差がある。

     学部の成績が考慮に入ることは?

ここでは全く入らない。面接の時にちょろっと言うかもしれないけどね。 どこの大学院を受けるにしても学部の成績はついてくる。願書のあとにくっついてくる。それを面接の時に見ながら話されるかもしれない。面接で問題なければ良しって所と、面接で半分にしようという所で違う。

     難易度は?

大学院重点化で定員が増えて競争率は下がってると思いますね。

     大講座の中の講座にはどうやって配属されるんですか?

最初に願書に書く。大講座ごとに第三希望まで書いて、更にその中で講座ごとに希望順位をつける。競争はその講座ごとにやる。 どこでもいいという選択肢もある。充分成績があればの話ですが。 同点数なら第一希望優先です。第一希望の人より第2希望の人が点が下の時は研究室の方針によります。

     あと少しで退官されますが、この30年間で物理は進歩したと思いますか?

我々の回りでも随分色々なことが解決してきてますね。 理論で言うとコンピューターの力が非常に大きい。我々が大学院に入った時と比べると当時の最高のコンピューターは今のパソコンにもはるかに及ばない。 それで色々なことができるようになった。 一方で実験の進歩で今まで考えられないような実験方法、実験結果が出てきて分からないことが新しく出てくる。

     物理は分からないことがまだいっぱいあるってことですね。

そうです。しかし、今コンピューターが発達してものすごい大規模な計算をしないと最前線に出られない。コンピューターが発達すると最前線の研究がどんどんできるかっていうとそうでもなくて、ものすごい計算をしないと第一線の研究にならない。そういう意味では昔の方が幸せだったかもしれない。

     何か「物理への思い」をお願いします。

物理の色々な分野で(量子化学も含めて)、研究対象が少数の粒子から成っており、課題の核心は、3対・4対系の量子力学を厳密に解くことに帰着する例は非常に多い。そのために、広い分野に適用可能な普遍性の高い(かつ予言力のある)理論を構築することが小生の狙いであり、この20年間の多くの九大核理論の院生の力を借りて(というより彼らが主役となって)、ほぼ出来上がっていると言えよう。 「少数粒子系の物理」という視点から見ると、世界最先端の研究グループであるとという自負がある。 研究室の若手が、この理論を携えて様々な分野・課題に挑戦し、そこで固有の困難に鍛えられて理論をレベルアップし、持ち帰って元の理論をより強固にする、というサイクルを何度か繰り返してきた。 「少数粒子系の物理」をキーワードとして、様々な分野の面白さが射程に入ってきた。九大院生は非常に優秀であり、「わが戦友」である。自分とで院生が生み出した理論が、その若手達と共に成長し活躍するのを見てきたことが、今後もそうありたいということが、 「私の物理への思い」ですね。

     最後に学生に一言お願いします。

若い人がどんどん出てきて物理を輝かせてください。若い人が頑張るのが一番の楽しみです。

     ありがとうございました。


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