はじめに

   Galileo Galileiが1642年1月その生涯を閉じてから約11ヶ月後の12月25日、イギリスのLincolnshire州にある小さな農村WoolsthorpeにIsaac Newtonは生まれました。Newtonは自然科学の父と呼ばれ、自然を記述するために必要な微分や積分という新しい数学を作りました。この数学を使うことによって自然法則が正確に記述できるようになりました。

   Newtonというと、「リンゴが木から落ちるのを見て万有引力を発見した」と思い浮かべる人も多いでしょう。Newtonはケンブリッジ大学に通っていたのですが、Plague Yearsと呼ばれる1665年から1667年、イギリスではペストが流行したため大学が休暇になり、郷里に帰っていました。ある日、Newtonは庭のリンゴの木の下で思索にふけっていました。そのとき、リンゴが木から落ちてきたのです。リンゴは、地球の重力によって木から落ちてきたわけですが、その瞬間にNewtonは月もやはり地球の重力によって落ちることに気が付いたというのです。本当にNewtonの目の前で、リンゴが落ちたかどうかは分かりません。以前聞いた話によると、ある人がNewtonに「どうやって万有引力を発見したのですか?」とたずねたところ、「庭のリンゴが木から落ちるのを見て」と答えたそうです。もしこの出来事が本当だとしたら、Newtonの発想力には驚嘆します。 こうしてリンゴにも、天に浮かぶ月にも太陽にも、その他の天体にも、あらゆるものに同じように万有引力が働いているという発見は、まさに物理学の新たな扉を開いたのです。

   Newtonは故郷に戻っている間(1665年の夏から1667年の春)に研究に没頭していました。自分の身なりも気にしなかった程だそうです。そして、1685年、その集大成となる『Philosophiae naturalis principia mathematica(自然哲学の数学的諸原理)』(通称『Principia(プリンキピア)』)と呼ばれることになる著書を発表しました。この当時、学者はラテン語を用いて書物を書くことが普通であったのでこの『Principia』もラテン語で書かれています。英語にすると『Mathematical Principle of Natural Philosophy』となります。また、Eucleides(ユークリッド)の『Preclarissimus Liber Elementorum Euclidis Perspicacissimi(原論〔幾何学原本〕)』を意識して、書き方も似せてあります。Newtonは自分の研究をむやみに世に広めることを嫌がっていたそうです。ですから『Principia』も、ハレー彗星の由来となったEdmund Halleyによって強く勧められて出版したそうです。『Principia』は、巻を重ね最終的には3巻になりました。1665年から1667年の間になされた数学、光学、力学における彼の偉業により、1666年はThe Annus Mirabilis(marvelous year)と呼ばれました。

   『Principia』は、私たちがすむ自然界(宇宙)に働く力や物体の運動に関する法則などを説明したものです。Newtonは古代ギリシャ以来の長い研究の歴史の末に、天体を含むあらゆる物体が、なぜ動くか、どのように動くかを、はじめて原理として示すことに成功しました。『Principia』には、はじめに【Three Laws of Motion】の公理が述べられいます。数学では公理は必ずしも事実に基かなくてもよかったのだが、Newtonが置いた公理は、実験や観察、それにより導き出されるものによるものであった。こういった意味で「私は仮説を作らない」と言ったのである。

Newton's Three Laws of Motion
Newton's First Law: Every object in a state of uniform motion tends to remain in that state of motion unless an external force is applied to it.
Newton's Second Law: The relationship between an object's mass m, its acceleration a, and the applied force F is F = ma. Acceleration and force are vectors (as indicated by their symbols being displayed in slant bold font); in this law the direction of the force vector is the same as the direction of the acceleration vector.
Newton's Third Law: For every action there is an equal and opposite reaction.

   これをもとに微分・積分について触れられています。ここで、加速度・速度・距離・時間の関係を明らかにしているのです。ここに現われてくる定理・公理によって作られる力学により、新しい宇宙体系があらわされました。ここに20世紀に受け継がれる近代的な宇宙観が成立したのです。万有引力の発見や運動の法則の確立などによるNewtonの業績は、その後の物理学のすべての礎となっています。20世紀になって物理学はHeisenbergなどに代表される量子力学と、Einsteinの偉業である相対性理論という革命的な理論体系が出来あがりました。これにより、Newtonが作り上げた力学は『古典的物理学』と呼ばれています。しかし、巨視的に見ると我々のすむ世界では、今も“完全に”Newtonが打ちたてた力学は成り立っているのです。

   さて、今年Newton祭を開催する運びとなりました。研究室紹介を中心としたもので、その他のイベントについては、餅つき大会、スポーツ大会、コンパ、またビデオ上映などを企画しています。

   研究室紹介は、学部の学生が今後の進路を選ぶために、直接研究室を訪れて現在行なわれている最前線の研究内容やその研究室の雰囲気などを知る機会と位置付けています。特に3年生には4年次に控えている特別研究の研究グループを選ぶために、最大限に活用してもらいたいと考えています。そのため自分の興味のある分野に限らず、様々な研究室に行ってみてはどうでしょうか。特別研究のための説明会も実施されますが、やはり説明を聞くだけではなかなかその深さや雰囲気は伝わってこないと思います。直接自分の目で見る、耳で聞くということを通して、自分の中に新たな興味が湧いてくることでしょう。それによって進路を決めることがあれば私たちの役割は果たせたことになります。

   1,2年生も、遊びに行くような感覚で研究室を訪れて、どのような研究をしているのかを直に触れ知ってもらいたいと思っています。1,2年生は、まだ将来のことについて考えることも少なく、漠然と考えている人が多いと思います。私自身がそうでした。しかし早い時期から将来の進路について考えたり、研究のまさに最前線を訪れることは視野を広げる良い機会となると思います。この機会で得るものは3年になり4年になり、将来を見据えるときによい道標となることでしょう。

   また餅つきやスポーツ大会、コンパについては、学部の学生が、先生方や院生の方々と物理以外のことを通じて触れ合うことによって、物理学の面白さやその奥深さなどを知り、物理学科に来てよかったと思えるようなものにしたいと思っています。また希薄になりがちな物理学科の縦のつながりも併せて深めることができればとも思っています。そのためにも3年生だけでなく、諸先生方をはじめ、院生、4年生の諸兄、また1,2年生に至るまで多くの方々のご参加を心よりお待ちしています。

   このNewton祭は様々な形で協力してくださった方々の賜物です。研究室の諸先生方をはじめ院生や4年生の方々に多大な無理をお願いしてしまったこともありました。また事務の方々には些々な雑務をはじめ諸般の事務的な事柄についての賛助を頂きました。そのおかげでこのように立派なNewton祭を開催することができました。Newton祭は私たち学部生にとって将来への大きな糧となるに違いありません。この場を借りて、厚く御礼申し上げます。

2001年12月吉日
Newton祭実行委員代表
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